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歴史と背景
 
1920年代、アメリカでサンフォード・モーラー氏が確立させた奏法スタイル。
元々は、南北戦争(1861~1865)に戦地での号令、合図などを出すために使われていたスネアドラムの演奏方法。
失敗など許されない命がけの戦場で号令、合図を確実に仲間に伝えるために、
音をハッキリとしかも遠くに飛ばすため、さぞかし合理的な奏法であったと推測されます。

当初は、首からぶら下げたスネアドラムのみを叩くための奏法だったものを、
戦後、ジーン・クルーパ、ジョー・ジョーンズ・バディ・リッチら1930年代に活躍するビッグバンドドラマーへ受け継がれていく過程で、必然的に現在のようなセットドラミングへ応用できる形へと、どんどん改良されていきます。

その後もフィリー・ジョー・ジョーンズ、エルヴィン・ジョーンズ、トニー・ウィリアムスなどの1950~60年代を代表するビバップドラマー、
フレディ・グルーバー、ジム・チェイピンなどの権威ある教育者、
ピーター・アースキン、ヴィニー・カリウタ、スティーブ・スミス、デイブ・ウェックル、
デニス・チェンバースなどの1980~90年代のオールラウンダー、
チャド・スミスやテイラー・ホーキンスなどの現代ロックドラマー、
そして2000年代の現在になってもジョジョ・メイヤー、キース・カーロックからアーロン・スピーアーズ、トーマス・プリジェンと言った現代ゴスペルドラマーまで幅広く受け継がれており、特に海外一流プレイヤーの中では、改良、進化したかたちで、もはやその影響を受けていない人を探す方が困難であると思われます。

 


特徴
 
一言で言ってしまえば、腕の屈伸運動ではなく、肩や腕の回転運動を利用してドラムを叩くと言うこと。
そして、指や手首の末端よりも肩、ひじの胴体側から先に動くと言うことです。
脇が開いたり閉じたりして見えるのはそのためです。

野球やテニスなどのスポーツ同様、身体の構造にとって、こちらの方が体に負荷がより少なく動きやすいと言えます。
結果的に、肩や腕の重さをそのままスティックに伝えることができ、筋力を使うことなく、
楽に、スピードを犠牲にせず、音圧のある音が出せます。
当然、音色にも影響があり、カンカンと耳障りな高域が目立たなくなり、より太い音色に変化していきます。

私自身、以前は、力みから常に親指、人差し指が割れ、特に冬場の演奏時は、常時テーピングが欠かせない状況でしたが、現在では、全く必要無くなりました。
力むことなく演奏できることで、体が楽になることはもちろん、演奏中に奏法面への意識をすることなく「楽曲」そのものへと集中できるため、私自身にとっても、バンド全体にとっても、演奏の向上へつながることが、もっとも喜ばしく感じた点でもあります。
我々の身体にとって、自然な動きを利用しているモーラー奏法やその応用は、現代のようなセッティングになったドラムセットを演奏する上で非常に便利な方法であり、何も特別な奏法ではなく、むしろ、これこそがセットドラミングの基本的な奏法と言っても過言ではない気がしております。
 


なぜ実用的なのか?
 
ご存知の通り、一般的に現在、ドラムセットと呼ばれるものは、スネアやタムなどの太鼓類、ハイハットやライド、クラッシュといったシンバル類、そして脚で演奏するバスドラムと、
はっきり言ってしまえば、何種類もの打楽器が集まった楽器であります。

そして、それらを演奏するためには、硬さも、叩いた時のスティックの跳ね返り方も、各楽器のある位置も高さも違うものを同時に演奏する楽器である以上、必然的に腕を上げたり下げたり、伸ばしたり縮めたり、強く 、弱くと瞬間的にコントロールしてやる必要があります。
垂直方向からだけでなく、様々な角度から打面をヒットすることが可能なモーラー奏法なら、この点では非常に利がありますし、更に、フリーグリップとの併用により、ヒット後のリバウンド処理や音色のコントロールもより容易になります。
我々、人間の身体構造に基づいた動きで身体の潜在的な力を最大限に利用することができる、この奏法がより実用的である理由がここにあると思います。

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